アジア選手権国内予選観戦記 ---玉泉・上嶋 賛歌---

 二次リーグと三次リーグは雨の中。試合にならない、というほどではないが、滅多にボールが『ふく』ことのない砂入り人工芝で、女子でさえ『ふいて』いたから、やはり相当な雨だった。こういうところではいいゲームはうまれない。しょうがないが、選手たちも気の毒であった。

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玉泉・上嶋(東芝姫路) 国際大会の予選で3年連続優勝という快挙を成し遂げた。
三次リーグでの玉泉春美(東芝姫路)
 玉泉・上嶋の強さは、2年前の皇后杯を彷佛、というかそれ以上の圧倒的なもの。その皇后杯では7試合やって失G3。本予選会では最終戦の佐藤・緒方戦前まで9試合やって失G3(得Gはなんとそこまでで45になるわけだ)。その佐藤・緒方戦もG4-0とリードしたあと4G連失し、そのファイナルも4-5で佐藤・緒方がリード。あわや、というところまでいった。佐藤・緒方が勝てば、彼女たちが代表になる。玉泉・上嶋の完璧さ以外ほとんど見所がなかった今回の女子に、手に汗にぎる攻防が最後の最後にやってきた。

 玉泉は雨をものともしない。多少不安定になるシーンもあったが、神経質になることがすくなくとも側目には感じられない。特に二次リーグでは完璧だったと思う。速くクオリティの高いボールが早いタイミングで放たれ、きっちりベースラインに吸い込まれていき、対戦者はどうしようもない。三次リーグでもほぼ同様、とくにクロスが冴えている。弾道は低いし、角度はきつい。

 強打だけではいくら凄くても、これだけの差にはならないと思うが、彼女には必殺のカットがあり、前にも書いたが、これが玉泉のゲームメイクの重要な要素だ。カットで陣形をくずし、そこに強打をぶち込み、あとは自由自在である。ルール変更でますますカットは有利に働いている。もっと前衛を活かす配球を、という声もあるが、これだけ強ければ文句をつけるほうが間違いだという気がする。

 日本女子は、釜山アジア五輪、広島世界選手権と韓国に前後左右に振りまくられて、大苦戦し、結局敗戦した。振られ弱いのは、日本女子共通の弱点で、この玉泉・上嶋も例外ではない。そのことは釜山、広島で明らかになったはずだが、そういう展開には、今回の予選では、ほとんどならない。芸がない、おもってみていたが、どうもそうではないらしい。韓国女子にあって日本女子にないもの、それは膝をわって打ち返す、強い下半身と真の打球力である。釜山での朴についてそう書いた記憶がある。あの時は韓国ボールだから、ともいえた。でも広島でも同じだった。玉泉を打ち負かすことはできぬまでも、対等に打ち合える打球力、すくなくとも耐えうる打球技術をもってないと、その先はないのだ、と当たり前のことの今さら気づかされた。鍛えられた下半身と技術がゲームを簡単に破綻させることなくささえることができるのである。国際大会で玉泉の強打が通用しない、というわけではない。むしろ十分に通用する。国際大会がさらに高いステージにあるということを痛感したわけだ。

 ある人は、いま玉泉とまともにうちあえるのは河野と佐藤ぐらい、といっていたが、インドアならともかく外ではそれくらいである。そこに渡邊もくわえたいが、渡邊はスピン系のストローカーであり、また意味合いが違ってくる。
佐藤(左)・緒方(ヨネックス) トータルで7勝2敗。順位は3つどもえで4位になったが実質2位といって間違いないし、それだけの力をみせたと思う。
辻(左)・松村(東芝姫路)
掘越・渡邊(NTT西日本広島)

 戦前の予想で、玉泉・上嶋と対抗馬として河野・福田、渡邊・堀越を挙げた。しかし福田の引退で同ペアは棄権。

 女子選抜でそれほど喪失感を感じないと書いたばかりだが、今回は全く逆の印象を持った。単に河野の不在だけではない、と思う。なぜ女子選抜で感じなくて、今回そうかんじたのかはわからないが。

 渡邊・掘越は佐藤・緒方、辻・松村、逢野・濱中と揃ったきついリーグに。一敗のあと、辻・松村を大接戦の末下し、最終リーグ進出をきめたかにみえた。辻・松村もここで完全に可能性が消えたとだれもがおもったのだが、最終戦、そこまで二敗と勝負に関係ない顔?をしていた逢野・濱中が簡単に渡邊・掘越を下し、天地がひっくりかえる大混乱になった。辻・松村がまさに地獄のなかから蘇った。世の中、なにがおきるかわからない。

 佐藤・緒方は一昨年、何度か玉泉組に勝っている。昨年の予選のときには(玉泉組の)対抗馬のひとつとして挙げたはずだ。今年のプレヴュ−ではうっかり名前をあげなかった。不明を恥じたい。

 二次リーグの佐藤はそれこそ完璧。三次はそれほどでもなかったし、玉泉戦も1ゲームめの接戦(玉泉がもたもたした)を落とした後は、玉泉の強打を持てあまし、あっという間にG0-4。緒方もイージーなミスを序盤にやってしまい、前半、機能しない。
 玉泉組、G4-0の大きいリード、あと1Gですべてが終わる、というところで気が抜けた、ようにはみえなかったが、それまで49ゲームやって、たった3Gしか落とさなかった玉泉・上嶋が突如、綱から落ちる。あれだけ簡単にとれていたゲームがとれないのだからみているものも不思議な気になる。テニスはおもしろい。

佐藤↑・緒方↓(ヨネックス)
 G4-3と追い上げられたところで玉泉組がマッチを掴み、逃げ切ったな、と思う間もなく、またも勝利はするりと逃げる。
 ファイナル、さすがの玉泉もカットが上ずる。みたこともないような高い軌道をとる。がストロークはしっかりしていた。ラケットがぶんぶんふれた。これはほんとにたいしたものだ。
 それでも佐藤・緒方が5-4とメイクマッチ。ここで緒方が痛恨のスマッシュミス。つづくラリーから佐藤の甘いクロスシュートを上嶋ポーチして万事休す。 ボールも甘かったがこのポーチは上嶋の存在感を示す好プレー。玉泉が圧倒的にいいので上嶋は目立たなくなっているが、前衛としての抜群の嗅覚の良さが随所に光る。声高に自己主張しないでバランスを重視し、ペアとして、玉泉・上嶋として、実にすきのないテニスをつくりあげている。

 佐藤のテニスには知性を感じるというか配球に意志がある。意味のないボールがないのだ。クオリティそのものも以前よりアップしているように感じる。強打もそうだが、細かい制御が巧みで一本調子にならない。配球にひらめきもあるし、それを実現する技術もたしか。一本気な頑固さも時折みせて、なかなか一筋縄ではいかない。玉泉戦でファイナルに追い上げているのを見ながら、佐藤が国際大会でどう戦うかみてみたい、としきりに思ったものだ。
 ただ攻めのロブが甘い。ミドルに寄り勝ちでほとんど効果をあげていない。このへんは課題だろう。
 緒方は先に書いたように前半機能せず、追い上げるなかで、いいところでポーチ決めたが、全体としてはゲームにほとんどからめない。ただネットからはなれたときに玉泉にバック側を攻められたボールを何度も跳ね返し逆ポイントしたのは鮮やかで、能力の高さを感じるし、後半のゲームをおもしろくした。

 佐藤が国際大会でどう戦うか見たいと書いたが、彼女のほかに国際大会未経験者でそう思わせる選手は今回見あたらない。うまくいえないが、動きの機敏さというかそういうものに欠けた選手がおおいのが気になる。なにか鈍いのだ。重いのだ。

寺崎↑・宗久↓(NTT DoCoMo)

 結局、玉泉・上嶋は10戦全勝(得G50-失G7)。辻・松村は2位だがトータルで5勝4敗であり、ちょっと信じられない数字だ。4敗もしたのが信じられないのではなく、4敗もして2位なったことが、である。数字のマジックである。勝負強いという人もいるだろう。そうなのかもしれない。
 佐藤・緒方は7勝2敗(最終順位は4位)、寺崎・宗久は5勝4敗。

 辻はボールが良く飛んでいるように見え、これほど苦戦するのもまた信じられないが、ボールクオリティの問題だろうか?松村がもうひとつなのは確かだが、前衛が機能していないのは、なにもこのペアだけの問題ではない。

 寺崎・宗久にはアジアカップや女子選抜でのプレー振りから期待していたのだが、もうひとつという印象。フォーメーションを工夫し、型にとらわれないテニスは評価したいが、今回は、変な話しだが、逆に型にとらわれているようにも感じられた。まだまだ課題がおおい、ということか?
 また、寺崎にスピード(ボールのではない、動きのクィックネス)が不足しているし、サービスももっとパワフルでないと、あのフォーメーションは活きてこないのではないか、という気がする。

 いい前衛がいない、というのは、決まり文句のように、いつの時代でも語られる。が、どの時代にも普遍的な高いレベルに達したスターが存在していた。現在はそのスターが不在である。
 上嶋、掘越、濱中の3人が現在の好前衛というのが衆目の一致するところだろうか(宗久も加えたい)。しかし国際大会で2タイトルをとった前世界チャンピオン(このアジア選手権のディフェンディングチャンピオンでもある)の裏地美香(元タカギセイコー)には遥か及ばない。いや新世界チャンピオンの金明希(韓国農協中央会-引退)にも遠くおよばないのが現実だ。

 韓国女子の前衛レベルについては日本でははなかなか正確には語られない。語ろうとしない。日本は宗主国意識が、当然だが、強いので、他国の実力をみとめることが難しいようだ。いくら強くても、いくら負けても。
 実際に負けても、技術的にはかわらないとか、どうかすると、技術的には日本が上、あるいは日本のテニスが正しい(正統)、とかそういう話しになる。必ずなる。こういうメンタリティは最低だとおもうし、向上は望めないとおもうのだが・・・別に真似をしろ、というわけではない。素直にみとめたほうがいいのでは、といいたいのだ。

 金明希はかなり高い水準までいった好前衛である。世界選手権ではダブルスで誰も彼女に勝てなかった。玉泉・上嶋も朴・張には勝てても朴・金には完敗した。前衛らしさという点ももちろんだし、ストローク力もすばらしく、つまりバランスもとれている。アジア五輪チャンピオンの張美花は技術的には金明希を凌駕していたが、らしさ、という意味ではかなり遜色がある。彼女も世界選手権を最後に引退。

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