ベスト アンド ブライテスト チョムチョンリポート PART3

ヨンドンは神になるか?

予選での劉永東。フォアボレーでは金耿漢。バックバレーでは金煕洙。スマッシュでは金煕洙、金耿漢。じゃいったい劉永東は?オールラウンダーなのだ。完璧に近いネットオールラウンダーなのだ。

 これは5月くらいに書きはじめたものだ。もう随分昔のことのような気がするが、サッカーのワールドカップが日本と韓国で開催され、これ以上ない、という盛り上がりをみせた。ワールドカップ一色といっていいほどのもりあがりで、そんななかで、たくさんの雑誌も創刊された。なんて雑誌だったかはわすれたが、ワールドカップのプレヴューでうめつくしたある本の特集に『ジダンは神になる』というのがあった。この一文はそのタイトルをもじったのものだ。ジダンだってラケットをもたせればタダのハ○のフランス人だ、なんて書いてみたりしたのだが、大会直前にけがをしたジダンはちょっとかわいそうなことになってしまった。

 サッカー以外はスポーツにあらず、みたいなことに必ずなってしまうのでほんとイヤなのだが、ジダンにまけず劣らずのおそるべきアースリート劉永東の存在をソフトテニス愛好者すらよくしらない、というどうしようもない現実にイライラしてしまった。この時期ジダンの怪我を話題にしたソフトテニス人は無数にいたろうが、劉永東の復活を話題にしたソフトテニス人はいったい何人いたのだろう。

 そのジダンの特集で元祖神様ペレが、ジダンに近い天才をもった選手はいないわけではない、しかし問題は強さの持続だ、みたいなことをいっていた。劉永東はどうだろう。彼は広島アジア大会の個人優勝者だ。しかし神といえるような領域に達したのはもう少しあとになる。

 先に書いたチャンピオンギャラリーで劉永東を『史上最強を狙える奇跡のネットプレイヤー』と紹介した。しかし本音をいえばわたしは史上最強をすこしも疑っていない。4年前のバンコクアジア五輪での国別対抗戦で、およそ前衛というポジジョンにあって、できうることを彼は北本・斉藤、謝順風・葉育銘という巨大な力をあいてに全てやりつくしてしまった。前衛というのはここまでできるものなのか、という物凄さであり、それが日本、台湾を相手にしたアジア五輪国別対抗戦5番勝負という、ソフトテニスの最高ステージでなされたのだ。

 翌年の台北もすごかった。このときは国別対抗戦で韓国は台湾に完敗し、劉永東も、パートナーの田絃基がボールにまったくあわずミスを連発しテニスの体をなさないなか、決定的なスマッシュミスをしてしまう。この大会での劉永東の評価はここで決まってしまい、「ヨンドンももう・・・・」みたいな声が聞こえたりもした。とんでもない。国別対抗戦のあと行われた個人戦では田絃基が立ち直り、謝順風・陳信亭との準決勝では前年の凄みとはまったく違うが、まるでシナリオのあるダンスのような優雅なプレーをみせ、変な話だが謝・陳との息もぴったりでそれに田をくわえた極上のクヮルテット(四重奏)を奏でた。その夢のような柔らかさ、美しさは、まさに神の領域であった。

 以降、劉永東は国際大会の場に姿をみせていない。とくに昨年のけががかなりながびき、4月の予選では全盛時の2割ほどのできだった。勝負感がまったくもどっておらず、金煕洙にも金耿漢もまるで及ばない力をわずかばかりみせただけで終わった。田絃基も世界選手権以来?の不出来で関係者も首を捻るほどだったが、何とかゲームをまとめ2次リーグで3つどもえに持ち込み、最終リーグへの推薦だけは確保した。ここでは若い鄭光錫とのペアとなったが、緊急ペアではどうにもならず李・金、黄・金にはまさかの零敗(田とのペアで最終予選を戦わせてみたかったが)。しかしその後のシングルス予選で決死、捨て身のネットダッシュをこころみ2位をもぎとったことで代表にすべりこんだ。アジア選手権、東アジア五輪とシングルスを連勝した方峻煥がステイバックしたままずるずると敗れ去ったのと好対照であった。(以上未完)

 あと数時間で釜山へ出発しなければならない。劉永東が神の領域にふたたび踏み入れることができるか、じっくりみてきます。