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 もともと硬式テニスが行われていた地域にソフトテニスが広がった経緯があるので,世界大会に硬式テニス・プレーヤーが参加すること自体不思議なことではないし,これまでもプロ・テニス・プレーヤーが参加することが度々あった.記憶に新しいところでは,‘99年の世界大会で台湾代表であったShi-Ting Wangがいる. トーナメント参加プロが,ましてやShi-Ting Wang程の高位世界ランカーがソフトテニスの大会に参加してくることは例外的と言えたが,彼女ほどでないまでも,かなりレベルの高い選手が参加してくるのが世界大会の興味深いところだ. 例えば’95年の世界大会で日本代表であった稲盛選手がシングルスで,オーストラリア代表の選手にサービス・エースを連発してくらい,ファイナルで敗れ去っていた. こうした選手達は,硬式テニスそのものの技術レベルが高い.

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 そして今大会もまた,そのような選手達が参加していた.そして,そうした選手の中でもいち早く目を引いたのが,ハンガリーの女子選手であったZsuzsanna Fodor(大会プログラムでは,Zsuzsaとなっているが,Zsuzsannaが正しいようだ.)であった.バックハンド・イースタンでのシングル・バックハンドは,Justine Henin-Hardenn(ジュスティーヌ・エナン・アーデン)を彷彿とさせる見事なフォームであった.そのバックハンドは,完璧なまでのフラットで打球されていて,威力もかなりのものであった.多くの硬式テニス・プレーヤー達はダブル・バックハンドを採用していて,バックハンドの打球力に欠けている中,彼女のシングル・バックハンドは際だっていた.サービスもスマッシュも巧い.ただボレーとフォアハンドに難点があった.フォアハンドは,多くの硬式テニス・プレーヤーがそうであるようにドライブで,威力そのものに欠けていただけでなく,やや不安定な印象を与えた.それでも今大会出場選手の中でも高いレベルのフォアハンドの持ち主であることにかわりはなかった.
しかしこうした選手達の技術力もさることながら,彼女ら・彼らはシングルスでの経験が豊富であるという点に,優れたものを見出すことができるはずであった.シングルスでのムーン・ボールのように,タフなゲームを乗り越えていくだけの術を身につけていることが強みになっていると感じられた.そしてそれは,ゲームの開始とともにはっきりすることだろうと,Zsuzsannaの練習を見ながら思わずにはいられなかった.
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 Zsuzsanna Fodorは予想に違わず,シングルスでは順調に勝ちあがってきた.2回戦で台湾の江婉埼--Chiang Wan Chi--を競りながらも0で退けると,3回戦では硬式テニス・プレーヤーであるタイのJang-Iam Withitaを1で退けてベスト8へ進出した.タイのJang-Iam Withitaも今大会出場している硬式テニス・プレーヤーの中では技術レベルの高い選手であったが,やはり何か違っていた.そして,準々決勝では,日本の河野加奈子と対戦した.

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 互いに好ショットを連発して,この戦いが大きな山場であることは理解していたのであろう,河野はポイントの度にガッツ・ポーズを繰り返していた.バックハンド・イースタンから繰り出されるZsuzsanna Fodorのバックハンド・ストロークは,確かに通用していた.いや,バックハンドだけに限れば,河野よりも優れていたといえたかもしれなかった.その証拠にZsuzsannaはストロークからネットにつくことが度々であった.ただ彼女はボレーに致命的な欠点があった.硬式テニス・スタイルのボレーはネットを越えることがなかった.何度も何度もネットに詰め,河野を追いつめながらも決定的なミスを連発した.それでも彼女は,好ショットを放ってネットにつくというスタイルを最後まで維持し続けていた.それが彼女のスタイルであるのかどうかは分からなかったが,ボレー・ミスにたじろぐ様子は見られなかった.
 好ショットの連発で,お互いに攻撃姿勢を全面に打ち出していたこの長かったゲームは,ゲーム・カウント4-1で河野の勝利となった.そして河野はこの後,女子シングルスチャンピオンに輝いたのだった.一方Zsuzsanna Fodorは,国別対抗戦のシングルスで台湾の江婉埼と再び対戦し,敗退していた.個人戦で見せたほどの集中力は感じられず,このゲームには何も感じられなかった.

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 硬式テニス・プレーヤーが活躍すると,土台ができているからといわれる方がいるが,それはつまり,硬式テニスの技術の中にソフトテニスに必要な要素が含まれているということを示している.つまりZsuzsannaに学ぶべきことがあったはずである,ということを意味することになる.現在日本国内で販売されているソフトテニスの指導本では,ラケット・グリップの握り方はウエスタンとイースタンだけが紹介されているものがほとんどである.コンチネンタルとイースタンを合わせてイースタンと紹介されていて,両者の区別はされていない.しかし,例えばキック・サーブをイースタン・グリップで行うことが困難であるように,特定の技術に対してはそれに適したグリップの握り方があると考えられる.新たなものを作り,それを正確に後世に伝え残していくためには,曖昧な表現では難しくないだろうか.Zsuzsanna Fodorが見せたバックハンド・イースタンからのバックハンド・ストロークはソフトテニスでも十分に通用することを証明していた.もし彼女のバックハンド・イースタンを紹介する場合,ソフトテニス関係者は何といって紹介するのであろうか.

Zsuzsanna Fodorのバックハンドアニメーション

 ソフトテニス・プレーヤーが滅多に使うことのないグリップの握り方だからこそ,大きな可能性が秘められているように感じられる.現在の韓国人男子選手のサーブなどにみられるように,ソフトテニスがもっているテーマは,速さとボールの柔らかさをどのようにゲームの中で使うかということは明らかである.ボールの柔らかさという特長を活かすためには,既存のグリップの握り方からボールにどんな回転が与えられるかを考えることが必要であるが,それとともに私たちにとって未知なるグリップからどのような回転がボールに与えられるのか,そのことに意識を向けることも必要だろう.私たちに必要なことは,ウエスタンとイースタンだけではなく,もっと多様な世界に生きることが可能であって,もっと大きな可能性をもっているということを理解することだ.硬式テニスの技術の中にソフトテニスに必要な要素が含まれていると考えるのであれば,硬式テニスとソフトテニスの違いを意識しながら,硬式テニスや他の種目の技術をもっと探っていくべきではないだろうか.そうすることが新しい創造に繋がり,ソフトテニスの発展につながると考えるからだ.

 Zsuzsanna Fodorには話を聞いてみたいと強く感じていた.彼女の雰囲気,そしてゲームに,魅了されたのだ.ハンガリー・チームは指定されていた休憩所にいることは殆どなく,彼女をつかまえることは大変だった.国別対抗戦のちょっとしたチャンスに,Zsuzsanna Fodorにインタビューをしたい旨を告げると,「いつ?」と訊かれた.「うーん,パーティーではどう?」と尋ねると,「いいわよ.」と快諾してくれた.大会終了後のフェアウェル・パーティーで彼女の話を聞くことになったのだ.(つづく)

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釜山アジア五輪2002でのShi-Ting WANG。

002 MOLNAR Eszter(ハンガリー)。この人も素晴らしいサーブを打つ。がなぜか國別対抗ではチープなカットサーブをうっていてがっかりした。
003 再びFODOL(ハンガリー)の素晴らしいサービス。
004 江婉埼。國別対抗の決勝より。ここでの江はすばらしくもうすこしで金英淑に買ってしまうところ。韓国の3番はヤング朴と李春美であり。3番にまわっていればどうなったかわからない。男子同様に白熱した女子決勝だった。
005 河野 女子シングルスの決勝より。日本から初の世界シングルスNO.1である。
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