楊勝發
YANG Shien-Fa ヤン・シェンファ
(台湾)

2003年の世界選手権で華々しくデヴュ-した新世代の旗手ともいえる素晴らしい才能を持った選手。2006アジア競技大会(ドーハ)、2010アジア競技大会(広州)でダブルスに優勝し、史上初のアジア五輪2連覇を達成した。2010は國別対抗団体戦にも優勝、シングルスで銅メダルを獲得した。2003年世界選手権、2005年東アジア五輪ともに国別対抗で金メダルを獲得。個人戦では2003年世界選手権ダブルス三位。2005年東アジア五輪準優勝。身長180。台湾台南出身。

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GROUND STROKE BACKHAND
グラウンドストローク/バックハンド
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バックハンドは回転で打つ、といわれる。コマのように回れ、という指導を受けたひともいるだろう。間違いではないが、それだけではない。回転ということは円運動ということになるが、完全な円運動になると方向性がなくなる。バケツで水をまくときぐるっと回転させてまくと回り一面に水がとびちる。しかしテニスの技術としてはこれではこまるわけだ。バケツに水ということで話しをすすめると、例えば数メートル先にあるたき火を消すイメージである。この例えは硬式テニスのレッスン書によくのっているのだが、まことにバックハンドの特徴を良くとらえている。目標に向かっての直線的なスイングが必要なのである。かの有名なホップマンキャンプでは「リニア(linear)なスイング」を、と指導しているが、これが大事なのである。ストロークは軸を中心に振られるのでだまっていても円運動、回転運動になる。だから強調されるべきは直線運動なのであり、これがコントロールと(打球方向に)無駄のないパワー伝達を可能にするのである。

フォアハンドでは支点になる肩が後ろになる。従って直線的にふることは比較的容易なのだが、(支点になる肩が前にある)バックハンドではそれがなかなかむつかしい。リニア(直線的に)にスイングするにはどうすればいいのか?それは身体をインパクトぎりぎりまで開かず打点を前にとること、である。身体を早く開いてしまうと前に大きく振ることはできず、横にはらうようなスイングしかできない。ただひっぱるしかできないバックハンドになってしまう。それもひっぱれるだけでコントロールが実にいい加減になる、というか難しくなる。打点をフォアよりも前にとるということはそれだけ早いタイミングで打つということで、つまりそれは難しいわけだ。バックはフォアより簡単だ、とよくいわれるとおもうが、最初のハードルは確実に高い、と認識しておくことは悪いことでない。簡単に身につかないからといって苦手意識をもつよりずうっといい。そうバックはむずかしいのである。

ただ身体を閉じたままだとスイングスピードはあがらない。インパクト後にブロックした右肩をパっと開放してやる、というのはよく言われるイメージである。結果として大きく回転するのである。回転そのものが目的であるわけではないのである。バックでも重要なのはウエイトシフト(体重移動)であり、従来の回転重視の指導ではそのもっとも大切な部分が置き去りされていることがままある。

いままで書いてきたことをそのまま実践しているのが今回の画像である。ここでの楊勝發のバックはまさに模範的といえるスイングであろう。

楊勝發

画像の説明に移ろう。これはストレートのラリーである。早いタイミング(ライジング)で、コントロールを重視した打球となっている。 

楊勝發のバックハンドグリップ。彼のグリップに関しては別企画を準備中なので詳しい説明はそちらに譲る。

テイクバック(2コマ~)は極シンプル。ここは非常に重要である。大いにみならってほしい。
左手がガイドとなりバックスイング。いわゆるユニットターンである。スタンスはほぼ平行。
バックはクローズスタンスというのが定説だが、それがなぜかを理解している人は少ない。これも支点となる肩が前にある関係である。フォアのように大きく引けないから、インパクトまでの助走を充分にとることができない、そのためのクローズスタンスである。しかし、ここまでよんでこられたかたはすでにお分かりとおもうが、極端なクローズドスタンスではラケットは前に振れない。バックハンド大国韓国では、バックはスクエアスタンスが基本、となっていることを我々は噛み締めなければいけない(誤解でしてほしくないのだがクローズがダメというわけではない)。

17コマめがインパクト、打点はかなり前、人によっては、めちゃくちゃ前じゃないか、と思われるかも。踏み込んだ右足の横くらい、と書かれいるのをどこかで読んだが、そんなところで打っていたんじゃコントロールもへったくれもなくなってしまう。理由は説明しなくてももうおわかりであろう。ここでの楊の打点は踏み込んでさらに目一杯右腕を突き出したぐらい前でボールを捕まえている。分解写真をみると、インパクトまでは全く身体が開いておらず、インパクトからフォロースルーにかけて大きく回転していく様子がよくわかる。

12コマ~フォワードスイング。15から17のインパクトまでは完全に水平につまりフラットに振られている。17のインパクト後ラケットは上に抜けるような軌道をとり、軽いトップスピンをボールに与えている。

楊勝發は圧倒的なフォアハンドに目を奪われるが、実はバックハンドの名手でもある。2003年の世界選手権国別対抗決勝のシングルスで世界チャンピオンの方峻煥(韓国)との強烈なバックハンドを打ち合い一歩もひかなかった。方峻煥は現役最高、ことによると史上最良のバックハンドの持ち主であり、その方峻煥と渡り合ったのは大変なことである。(右画像は2006年6月のアジア競技大会台湾代表決定戦での楊勝發)

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