|
選手村を離れてWANGは自身のコーチである父親とともに,競技会場であったSajikスタジアムからそう遠くないところに滞在していたようで,
私たちが泊まっていた自然黄土モテルのすぐそばで,食事にでも向かうのであろう二人に出会うことがあった.そんな時にはにっこりと微笑んでくれた.
しかし,試合中の彼女からは何となく苛ついているかのような印象を与えられた. 今回台湾女子チームは明らかにWANGに「おんぶにだっこ」の状態であった.
もともと台湾の選手は豪打をイメージさせる選手は少なく, 柔らかな上肢の使い方からシャープな打球をする選手が多かったが,今回の女子チームのメンバーは,韓国,日本に比べて迫力に欠けていた.
いや,特徴を欠いた選手が揃っていたと言った方が適切かもしれない.中国のDai Ting-Tingのような奔放さもなく,韓国勢のように速球を多用してくることも少ない.
ミスは少なく無難であるが,よほどネット・プレーヤーのできがいいのだろうかと思われるほど,ベースライン・プレーヤー達に特徴は感じられなかった.
天才と言われた小柄なPERNG Meei-Yuan(彭美園の方が馴染み深い人もいるであろうか.)のように,多彩なショットを打球するわけでもなく,
優勝をたぐり寄せる程のポイント力を持ち合わせていなかった.そのようなチーム構成の中でWANGが負けてしまっては話にならなかった.
国別対抗戦,シングルスでは圧倒的な力を見せていたが,ダブルスではベースライン・プレーヤー同士の並行陣形で試合に臨んだが, 連続ポイントがなく,ダブルスでは手の打ちようがなかった.そんな様子を見ていた僕は,彼女の個人戦シングルスに期待をすることにした.
しかし,国別対抗戦における日本の水上の活躍によって,勝利への矛先が少しずれてしまっていたのを,WANGは感じ取ることができなかったようだ.
国別対抗戦の台湾―日本戦において,大接戦の末水上はWANGにファイナルで勝ってしまったのだ. 遠目に見ながらも水上の戦いぶりは素晴らしく,シングルスにおいてはじめてWANGと互角の選手が現れたのかと思われるほどであった.
そして,その結果はWANG自身にある変化をもたらしたようであった. これまで通り自分の実力を発揮してそのまま戦えばよかったはずであったが,彼女の選択は異なっていた.
個人戦でのシングルスでは,予選リーグを順当に1位で勝ちあがってしまうと,それはシード選手である水上のブロックに入ってしまうことを意味していた.
つまり1位で予選を通過してしまうと,準決勝で再び水上と対戦しなくてはならない.そこでWANGは,予選リーグの1位通過をかけた韓国の金顕珠との対戦で,まず3ゲーム取ることに決めた.そして予定通り3ゲーム取ると,そこからはずるずると負け出したのだ.
彼女の選択に気がついたのは,負け出してからしばらくしてからであった. 突然の乱調と言うには程遠いほどのやる気の感じられない試合に苛々し,僕は思わず,
「スーチー注1),なぜ一生懸命やらないんだ?僕は君の素晴らしいパフォーマンスを見たいんだ.」
と叫んだ.しかし彼女は「仕方がないわよ.」とでも言いたげな顔を向けただけであった.この時点で彼女が2位通過を狙っていることを確信した.
そして,その選択は確かに合理的に考えられたし,決して間違っているとはその時点では誰も言えなかったに違いない. それでも僕は,ザラリとした何かを感じながら,その選択は間違っているのじゃないかと気になっていた.
WANGといえども,国際大会の舞台で,ワザと負けることなど経験したことはないであろうし, そのような経験は微妙な,越えがたい何かをもたらしはしないだろうかと,不安になったのだ.
だがその不安も,本当に心のどこかにふと湧き出たような代物で,僕自身確証のない不安に駆られる程のことはなかった.--->
|