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これは国別対抗日本戦、第一試合を前にした廖南凱。
 韓国人選手達の試合が終わり,韓国人観衆の多くがこのSajikコートを後にしてしまった中,個人戦シングルス3位決定戦が行われようとしていた.
 3位決定戦では,日本の中堀と台湾の廖南凱という,現在のソフトテニス界を代表する二人のベースライン・プレーヤーが対戦することになった.それでも僕は,3位決定戦という観衆からしてみれば面白みに欠けた位置づけにあるこの試合を見ておきたいと思った.試合と言うより,廖南凱を見ておきたいという方が正しいだろうか.
 廖南凱は33歳であった.ソフトテニスのこの大会参加者の中では,フィリッピンのPaguyo Josephineについでの年長者であり,そのことが僕にひとつの不安をもたらしていた. 廖南凱は今大会このシングルスが最後の試合であった.
 だからこの試合を見逃すと,もう二度と廖南凱の試合を見ることができないのではないかと,そんな不安が強くつきまとっていた. 33歳という年齢は,僕にわずかばかりの寂しさにも似た微妙な感情をもたらし,それが不安につながっていたのだ. だから僕は,試合が始まってもしばらくの間は,ただひたすら廖南凱が打球する姿だけを追っていた.

 彼を見るのは,‘95年に岐阜で開かれた世界大会以来であった.
 ずんぐりとした体つきと,ラケットを自身の首に水平に巻き付けるようにフィニッシュする打球フォームというイメージを持っていた.
 彼については,とかくライジング打法の名手として紹介されることが多いが,その通り,打点の低いフォアハンドのイメージは浮かばない. いつも首か肩のあたりでラケットの軌道が水平に描かれている,そんなイメージだ. そしてそのイメージは全く変わっていなかったが,ずんぐりとしたイメージは一新されていた. よく体の引き締まった,目の綺麗なテニス少年そのものの姿であった. 公称166cmとなっているが,国際大会でこれまで築きあげてきた偉大な戦績に似合わず,もっと小柄に見える. その理由は,ひょっとしたら彼がまだ国際大会のダブルス個人戦で優勝していないことにあるのかもしれない.

 
これも中堀・高川戦開始前の廖南凱。なにを振り返る?
三石・渡邊戦後半での蔡和岑の表情。結局彼は大会を通して立ち直ることが出来なかった。国際大会出場は3回目なのだが・・・
日本男子、台湾戦12振りの勝利の瞬間。アジア五輪で日本が台湾に勝ったのは1990年の北京大会での予選リーグ以来。同大会決勝、1994広島大会準決勝、1998バンコク大会準決勝と3連敗中だった。
'94に広島で開かれたアジア競技大会や,その翌年の世界大会におけるシングルスでの強烈なまでの活躍は,多くの人を魅了した. 例えば‘95年の世界大会では,個人戦シングルスに優勝した韓国の張漢渉に, 団体戦のシングルスでは0で勝っていたことからも,彼の活躍ぶりは容易に想像がつくだろう.
 華麗なライジング打法から,強烈なフォアハンド・ドライブを高性能な精密機械のようなコントロールで,右に左にと打球してくるのだ. そのタイミングとコントロールは,ソフトテニス界の至宝と言えるものだった.
 そんな廖南凱だが,何故かダブルスでの優勝はなく,それは20世紀ソフトテニス界の大きな謎とも言えた.
 その彼が,3年ぶりに国際大会に復帰してきたのだ.

 廖南凱を7年ぶりに見ることができることは,釜山に来る上での大きな目的のひとつであった. ところが,日本を先発していた友人達から釜山に着くやいなや聞いた言葉は,僕に大きな不安を与えた. どうやら廖南凱は怪我をしているのではないか,それもラケットを握る腕の肩のあたりのようだというのだ. 果たしてその情報は正しかった.翌朝会場に着いて台湾チームの練習を見ると,廖南凱だけが練習を休んでいたのだ. 他の選手の練習を見ながら,一人バックコートの壁を使って,肩のストレッチングを入念に行っていたのだ.これはただごとではなかった.

郭旭東(左)、蔡和岑。彼らの大逆転による敗戦は大誤算だったろう。
これは真剣そのものの郭旭東。ダブルス3位決定戦より。団体戦ではさっぱりの郭だったが個人戦はまずまず力をだし、中堀・高川をやぶった。劉永東にはずたずたにされたが・・・ただ郭・方は劉永東には強く、バンコク、台北と2連勝中だった。ちなみにこの決定戦はバンコクアジア五輪の個人決勝の4分の3の再現。内容の濃い熱戦。
 ひょっとしたら,台湾男子チームは調整に失敗したのではないか,そんな思いが浮かんできたのは,団体戦の台湾―日本戦を見終わってからであった.

 対戦成績1対1で迎えた第3対戦である第2ダブルスでは,郭旭東・蔡和岑組と三石・渡辺組が対戦した. 端的に言ってしまえば,その試合は大人と子どもの試合であった. 正にそんな感じであった.

 '98のバンコクアジア競技大会で個人戦ダブルスに優勝していた郭旭東のテニスは,時折放たれた三石の豪打を軽くいなし, 郭旭東の柔らかな配球のテニスに渡辺は全くポイントすることができず, ゲームはあっという間に4-1と台湾ペアのリードとなった(釜山アジア競技大会の公式ホームページに掲載されている結果では, 渡辺・三石組がリードしていることになっているが,間違いである).

 ところが,3ゲームほど取ったところから郭旭東はゲーム中にニタニタ笑い出すようになっていたのだ. 当初ニタニタするのも仕方がないくらい両者に差があるように思われ,郭の態度を僕自身それほど気にもしていなかった. 寧ろ,国際大会での経験値の差を見せつけているように見えた郭旭東の柔らかなテニスに魅了されるほどであった.

  しかし第6ゲームになると,それまで不安定この上なかった三石のフォアハンドが急にテニス・コート内に突き刺さるようになり, あっという間に追いつき,大逆転勝ちしてしまったのだ.この間の三石・渡辺組の切れ味は非常に鋭く, 多くの観戦者が三石・渡辺組のできの良さに感心していた.正直なところ,これほどまでに鋭い打球ができるとは思ってもいなかったので, 三石のこれからの活躍に期待したいくらいであった.
 その一方,ふがいない負け方をしてしまった台湾ペアに対する観客の非難の矛先は,当然のように郭旭東に向けられた. そしてその敗戦は,台湾チームにとってはかなりのショックであったのだろうか, 続く第2シングルスで廖南凱は高川にファイナルで敗れ去り,日本の勝利が確定したのだ.====>

 

 

  

  
JAPAN VS.TAIWAN  
NAKAHORI/TAKAGAWA
5-2 LIAU/TSAI
KOMINE
3-4 LIU
MITSUISHI/WATANABE
5-4 KUO/FANG
TAKAGAWA
4-3 LIAU
NAKAHORI/KOMINE
--- KUO/FANG
 
シングルス準決勝より。