| ソフトテニス界の至宝とも言うべきフォアハンドにもかかわらず,廖南凱にはバックハンドがないだけに,時代遅れの感は拒めない. しかしながら至宝のフォアハンドは,21世紀になった今も輝き続けていた.
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| 応援に手を振る廖南凱。これをやってサマになるのは、まあ、ナンカイぐらいだ。 |
さらに彼は,試合が終わってからもすごいのだ.とにかくかっこいいのだ. 試合が終わると,かぶっていた帽子を取って観客席に向かって手を振ってくれるのだ.
それが実にさりげなく,品がよくて,風格は正にプロフェッショナル・テニス・プレーヤーだった.
大声で怒鳴り,相手を威嚇するようなことはなく,紳士そのものなのだ. 日本の中堀もそうだが,ポイントを取っても失っても淡々とゲームを続ける姿は,自分自身と対話を続けながら目前の対戦相手と戦っている,
そんなイメージを喚起させる. プレーヤーは孤独なのかもしれない. ボールを打つ一瞬,自分がどのように打球すればよいのか誰に相談することもできない.
その一瞬,全てを自分で決断するしかないのだ.だから自分自身と対話し,自分自身を乗り越えていく時間が必要だ.
かといって彼ら二人に迫力が感じられないということはあり得ない. 彼らから感じられることは,自分のプレーに集中できている人間だからこその研ぎすまされた人間像だ.
自分自身を乗り越えた人間だからこその迫力を見せつけてくれているのではないか,そしてその迫力こそが観客を魅了するのだ.
廖南凱のフット・ワークのことを考えると,彼はかなりのトレーニングを積んできたように思われた.それだけに彼の怪我は惜しまれてならなかった.
彼が万全な状態での試合を見たかったし,だからこそがっかりしたのも事実であったが,卓越した技術を披露してくれたことはそれ以上の感激をもたらした.
何といっても,韓国の劉永東から男子選手では唯一ラケットの先を通してパッシング・ショットを奪っているのだから. 逆クロスのそのパッシング・ショットは,「こんなところにも打てるのか!」と誰をも驚かせるようなショットであった.
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| 中堀戦から |
そんなショットを考えると,ひょっとしたら彼の怪我は面白い効果をもたらしていたのかもしれなかった. 彼がフルスウィングできていないと指摘する観客もいたが,だからこそ普段以上のコントロールを発揮していたようにも思われた.
速球では勝負できないと判断したのだろうか,彼は自分を失うことなく,ただひたすら勝つための要素を求めていたのではないか. 今大会彼は不運だったかもしれない.自身の怪我に加えて,ネット・プレーヤー陣の不調が明らかであった.
怪我のことを英語で尋ねると,英語が分からないのか,それとも答えたくないのか,そのことには何も答えてくれなかったが, 試合が始まるとそんな不調な様子を感じさせないゲームぶりであった.
不調なネット・プレーヤー陣と自分自身のコンディションと,それらのことを冷静に見つめて,
ただただ自分にできることを探し求め実行する求道者のように感じられた. 彼は自分の置かれた状況を完全に受け入れ,そこから新しい廖南凱を僕達に披露してくれていたのだ.
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| シングルス3位決定戦での中堀。 |
廖南凱と中堀の個人戦シングルス3位決定戦は,すっかり暗くなってしまった中,開始からやがて1時間半を超えようとしていた. 二人の姿は,既に夜間照明の中に照らし出されていた.
そんな中,中堀は既に限界に達しようとしていた. 中堀は,この大会の直前新潟で開かれた全日本総合選手権大会を半ば途中棄権のようなかたちで終えたようにコンディションがよいとは言えなかったが,
両足大腿部が張って,大腿部の筋肉は悲鳴を上げようとしていた.
一方廖南凱は,疲れを感じさせてはいるものの,まだまだ十分にやれるだけの体力は残っているように強く思わせるようなプレーを続けていた.
長時間のシングルスは,結果的に両者の体力差を示す形になってしまった. しかし,だからといってこの長いシングルスが無味乾燥な,ただ続けるだけのラリーの連続であるようには微塵も感じられなかった.
熾烈なストローク戦がいつ果てるともなく繰り返されるこのゲームの果てには,一体何が待っているのだろうか, 誰もがそれを見届けることを待ち望んでいるかのように見守っていた.
ただただかっこよくて,この二人の類い希なベースライン・プレーヤーの長い長い対戦を見ることの幸せを,僕は心深く感じていた.そして,深く,優しい幸福感に包まれた自分を感じ始めると,この試合が始まった頃に考えていたことを思い出した.
「これで廖南凱の試合を見るのは最後かもしれない・・・.」
そんなことを考えていた自分が馬鹿らしく感じられた.廖南凱を超えた選手は必ずやってくる.廖南凱が見られなくなっても,この先にはもっとすごい選手が現れるのだと考えるようになっていた.
そして長い二人の旅に終わりがやってきた. 廖南凱が打球した最後のボールは,ネット・インして中堀側のコートに落ち,ツー・バウンドしようとしていた.
中堀は最後までダッシュを試みたが,その試みが果たされることはなかった.
ゲームは決し,最後の試みを果たすことができなかった中堀は,そのまま仰向けになってテニス・コートに寝転がった. すると廖南凱は,ネット・ポール脇を通り抜け中堀の所まで向かって行き,中堀に手を差し出したのだ.
起きあがることを促された中堀は廖南凱の手を取り,そして立ち上がった.
二人は試合後の挨拶を終えると,どちらからともなくネットを挟んで互いに深く抱き合った. そして中堀は,例えようもない,この長い旅を終えた者にしかできないような表情を顔いっぱいに浮かべたのだ.
もう何も言うまい.とにかく二人はかっこいいのだ.
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