金法顕--KIM
Beop-Hyeon--は国際大会初出場であった.そんな彼のややコンパクトなテイク・バックは,韓国の伝統的なベースライン・プレーヤーのイメージに近かった.しかし練習では,昨年釜山で大活躍した李源學--LEE
Won-Hak--の打球力が目を引き,金法顕が目立つことはなかった.ひたすら率先して声を出して練習し,彼のかけ声に合わせてチーム・メイトが声を出していたことが印象に残ったが,ただそれだけであった.それは翌日の練習でもかわりがなかった.
金法顕は初日のシングルスに出場していなかったので,二日目のミックス・ダブルスから出場した.ミックス・ダブルスでは昨年のアジア競技大会女子ダブルスで優勝した張美花--Jang
Mi-Hwa--と組み,準決勝では朴鐘淑・劉永東組と対戦した.
ゲームの開始から朴はロビングを打って劉永東頼みのゲームを展開し,それに対して金法顕は冷静に応じていた.やや力を抜いたボールをベースライン付近に向かって,細かく振り分けて打球していた.劉永東の活躍があってゲームはもつれたが,後半になると朴の打球を張がポーチして,ゲームを有利に進めていた.実は朴はバックハンドには難点があり,その特徴をよく捉えていたのであろう,金の打球に対応するかのように繰り出される張のポーチは見事であった.バックハンドで朴は,ボールを流して打球することができなかったのだ.クロスで金が朴のバックハンド方向へ打球すると,朴は引っ張ることしかできず,その打球を張がポーチしていたのだ.金の力みのないコントロール・ショットは,韓国女子コーチの張漢渉を彷彿とさせたが,受け身にまわってしまっていた朴の打球に威力がなく,この時点では金の実力を推し量ることははばかられた.ただ,劉永東が思ったほど勝負ができなかったことは気になっていた.
ミックス・ダブルス決勝は,金法顕・張美花ともに目立った活躍をすることもなく,朴英姫--Park
Young-Hee--・金耿漢--Kim Kyung-Han--組が優勝した.朴英姫は,金法顕と冷静に打ち合い,金耿漢のポーチ・チャンスを演出していた.結局この日は,金法顕はその真の姿を僕達に見せつけることはなかった.
金法顕は,大会3日目に開かれた男子ダブルス準々決勝,日本の中堀・高川組との対戦でようやくその真の姿を現した.ゲームは,中堀のサーブが全く入らず,実力を推し量りかねる相手にスタート・ダッシュを切りたかったはずの日本ペアは,序盤から苦戦した.それでもミラクルなスマッシュ・フォローなどもあってゲーム・カウント2-2となった.この序盤の過程で金は,ひとつ目の特徴をあらわにしていた.彼のフォアハンドは,“どフラット”であった.だから中堀の豪打に少しでも食い込まれると,スライスのような奇妙な回転のボールを打ってしまうことがあった.恐らく,フラットとスライスの間の極限的なラケット面での打球を行っていて,少しでも打球ポイントが狂ってしまうと,奇妙な回転となってしまうようだった.しかし彼の“どフラット”なフォアハンドは,クレー・コートでは十分な威力を発揮していた.
ところが第2ゲーム以降,柔らかなロビングを駆使して,ゲームを有利に展開するようになってきたのだ.そして第5ゲームになるとそのゲーム戦略の変更は,じわりと威力を発揮してきた.
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そのロビングは,フォアでもバックでも自由自在にあがったのだ.特にバックハンドで流すようにして打つクロスのロビングは,高度な技術力の証であった.ミドル気味に打たれたボールに対してフォアハンドに回り込むことなく,バックハンドでクロスへロビングをあげるのだ.そしてそのロビングが空中に描く軌跡は,フォアハンドとうりふたつであった.このようなバックハンドを使ってくるとは,全く予想外のことであった.
初対戦である金法顕を相手に高川は,このロビングの出現で配球がさらに読みにくくなったのであろうか,スマッシュをなかなか追えないままであった.しかしよく見てみると,後ろに退くことのない金法顕は打球のタイミングが早く,回り込むこともないため,金法顕の配球を読むことは困難であるといわざるを得なかった.あたかもバックハンドを積極的に使っているかのような金法顕の配球は,やはりミックス・ダブルスで対戦した劉永東にとっても読みづらいものであったのではないだろうかと思われた.それくらい安定した構えができていた.
この後,高川は果敢にスマッシュを見せたが,中堀のボールが威力を失い攻め手を見いだせなかった日本ペアに対して,後半もペースを崩すことのなかった韓国ペアにゲーム・カウント5-2で勝利が訪れた.中堀が根負けしてしまったという印象を強く抱かされたゲームであった.
しかしミックス・ダブルスや,このあとの個人戦決勝あるいは団体戦での彼のテニスと、ここでのそれはかなり異質であった。金法顕にしても,国際大会で実績を積み上げてきた中堀・高川組を相手に,やはり慎重にならざるを得なかったのであろうか.
男子ダブルスの決勝戦の相手は,昨年のアジア競技大会優勝ペアである李源學・劉永東組であった.金法顕は,近年の韓国男子ベースライン・プレーヤーに共通している,ネット・プレーヤーがポーチに出てパッシングされた際のカバーリング技術に長けていて,パートナーである方峻煥がポーチに出てパッシングされても,フラットなバックハンドでストレートにとてつもない威力のある打球で切り返していた.
ぎりぎりの体勢から,正確無比なフラットでボールを吹かすことなく,逆襲に転じていた.
そしてこのカバーリング技術は,パートナーであるネット・プレーヤーをポジティブなプレー・スタイルに駆り立てていた.つまり,ネット・プレーヤーが勝負してパッシングされたとしても,それが失点につながらず,ネガティブな印象を持つことなく何度でも勝負できていたのだ.実際ゲームがもつれていた中盤から終盤にかけての大事な局面で方峻煥はクロスのポーチを成功させていた.ネット・プレーヤーが注目を集める現代男子韓国チームだが,実はベースライン・プレーヤーも優れた存在であったのだ.
タイミングの早いフォアハンドとバックハンドのロビングを駆使しながらゲームを組み立て,どフラットなストロークで李源學・劉永東組と堂々と渡り合っていた.そしてついに,佐賀や大阪でそうであったように,弱気になった李源學を引き出すことに成功していた.李源學も中堀も金法顕に根負けしてしまったのだ.
そして,終盤になっていよいよラケットが振れてきた金法顕は,ストレートからクロスへ思いっきりパッシングを放った.ボールはネット・インして劉永東のラケットをかすめていった.
マッチ・ポイントを握った直後の最後の一球は圧巻であった.そうするのだと決めていたのであろうか,李源學からストレートに返球されたボールを思いっきりクロスへはたいて,劉永東のラケットの先を通していた.角度,タイミングともに見事なクロス・パスであった.New
Heroの誕生の瞬間であった.
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