来日した男子台湾チームの練習は,これで本当に大丈夫だろうかと思わせるような雰囲気だった.ゲームを行っても相変わらず荒さばかりが目立って,遊んでいるような印象を拭うことはできなかった.時折物凄いプレーを垣間見せることがあって,ひょっとしたら凄い選手達なのではないだろうかと思うこともあったが,あたかも今日は監督がいないからやりたいようにやっているといった,緊張感のかけらも感じさせないゲームを行なっていた.これまでの国際大会での練習と明らかに違った雰囲気に包まれていた.だからといって誰かが若手選手をたしなめることもなく,男子チームコーチであったHuang
Chin-Chou(黄錦洲)もじっと静かに見守っているといった風であった.台湾に行った際に,廖南凱が若手選手のことをさして,「台湾の若い人たちはあまり一生懸命練習しないが,それはこの国の文化だから仕方がない」といったようなことを語ってくれた.その言葉が現実味を増して頭の中を駆け巡っていった.
だが若手の中ではただひとり,楊勝發--YANG
Sheng-Fa--だけが台湾で見た印象と異なっていた.彼のフォアハンドは闘牛士を連想させる.闘牛士は,牛の首と背中の間にある急所に最後の一撃を与える前に,急所に向かって真直ぐに,射抜くようにその剣先を向ける.彼のフォアハンドは,あたかもそんな闘牛士のような鋭いフォームなのだ.高く構えたラケットは,その先端が一瞬相手プレーヤーに向かい,それからフォワード・スウィングに向かうのだ.そんな特異なフォアハンドの持ち主は,だが台湾で見た時には,幼さを強く感じさせるプレーヤーであった.ネットしてしまったボールを,恥ずかしがるように走って行って拾うプレーヤーであった.ところが来日した彼は,鋭いまなざしをその顔から発し,一瞬の機会をも逃すまいとするような顔つきをしていた.そしてそんな彼の雰囲気は,彼の特異なフォアハンドの印象をより鋭いものにしていた.闘牛士が放つ最後の一撃,それを狙っているかのようだった・・・.
事実,楊勝發--YANG
Sheng-Fa--は試合が始まると牙をむきはじめた.個人戦ではシングルス,ダブルスともに,韓国の李源學--Lee
Won-Hak--に襲い掛かった.よく回転の掛かったボールで食らい付き,鋭い牙で襲い掛かった.日本の花田直弥・川村達郎組とのダブルスで見せたように,鋭い中ロブを使いながら食らい付いていった.タイミングの早さを感じることは決してないものの,鋭く食らい付いて離さなかった.
好調であった花田・川村組をファイナルで伏し、ベスト4に勝ちあがると,アジア競技大会チャンピオンである李源學--Lee
Won-Hak--・劉永東--You
Young-Dong--組にも食らい付いていた.結局、楊勝發は,シングルス,ダブルスともに李源學にファイナルで負けてしまったが,牙をむいたという事実を観客の脳裏に刻み込んでいた.しかし,他の台湾男子チームのメンバーは,予想に反するようなことはなく,いつの間にかスケジュールを終えていた.個人戦が終了した時点では,男女とも韓国チームの圧勝に近い形で終わっていた.その結果だけをみれば,国別対抗戦も男女共韓国の優勝が最も近いと予想された.
|