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 広域公園のハード・コート4面は,初日のシングルスでも使用されていた.だから既に何人かの選手達は,このコートの感触を味わっていたことになる.屋内コートに打球音が大きく響き渡る.
方同賢。この国別対抗決勝は、おそらく彼の国際大会でのベストパフォーマンス。

 男女それぞれ二面ずつで行なわれることになった.男子決勝第1ダブルスは,李源學劉永東組と林朝章方同賢組との対戦になった.李・劉組のサーブから始まったゲームは,サービス・キープが続いた.釜山アジア競技大会チャンピオン・ペアである李源學劉永東組を相手に,台湾ペアは真の姿を見せ始めていた.台湾ペアのカット・サーブは,かなりの確率でサービス・エリアに入り,ハード・コートでのバウンドは低く,完全に主導権を握ることに成功していた.レシーブでの攻撃の目を絶たれてしまった韓国ペアの苛立ちが観衆にも伝わりはじめる程であった.

 近年,カット・サーブの重要性に対する認識はかなり変わってきたように感じていた.国内でも積極的に採用しているプレーヤーが多くなり,カット・サーブに対する否定的な言動が少なくなってきたと感じているのだ.

 日本では,玉泉春美のカット・サーブはかなりの切れを持っている.ところが台湾ペアのカット・サーブは幾重にも武装されたシステムとして完成度の高さを示していた.

 まずカット・サーブそのものだが,近年の台湾勢のカット・サーブの特徴は,打点が高くなっていることだと以前指摘したことがある(廖南凱などは本来打点が低かったが1998,1999年を境に修正した。もともとは劉宏裕がその嚆矢)。これは,韓国勢が採用しているオーバー・ハンドでのリバース・サーブなどと基本的な考え方は似ているように思える.つまり,打点を高くすることでスピードを高めながら精度を高めようとする考え方だ.近年の台湾勢が採用しているカット・サーブはアンダー・カットであるが,打点の高さは腰付近まであがってきていた.しかもこの打点の高さは,単に確率を上げることだけを想定したものでなく,精妙なボールコントロールをも意図しているように見える.

林朝章のカット。これは個人戦シングルス中国戦より

 しかし今回の台湾勢は少し違っていた。先祖返りともいえそうな、低い打点のカットをくり出してきた。特にそれは林に顕著で恩師である黄監督のそれに良く似ているともいえたが、切れ味確率とも師のそれを凌駕しているかにみえた。台湾が近年打点をあげることによって可能としてきたボールコントロールと確率の向上を打点を低くしたままで実現しえていた(黄監督の打点にくらべると林のそれは10センチ程高い)。打点をあげスピード化をはかることはカットそのものの切れ味を少なからず犠牲にしていたわけだが、打点を下げたまま放つ林のカットはスピードこそないものの切れ味では問題にならない。師の黄さんよりもさらにすごい。レベルアップした、ひと皮むけた台湾カットの姿があった。さらにこの決勝では,セカンド・サーブでも同様に切れのあるカット・サーブを行ない,完全に攻撃の目を摘み取ってしまっていた.

林朝章/方同賢。王俊彦・趙士城の徹底した前陣速攻にくらべるとよほど雁行陣を基本にしていたが、それゆえにスキがない。

 そして,カット・サーブと一体になったネット・プレーを再三にわたって見せつけてきたのだ.少しでも甘くなったリターンは,方同賢ばかりか林朝章のネット・プレーの餌食になっていた.方がサーブを行なうと,林,方ともにネットについてきたのだ.カット・サーブと一体になったネット・プレーというシステムがそこには存在していたのだ.唯一の弱点は,林がサーブを行なう時にはネット・ダッシュすることがなかったから,林のサーブの時に韓国勢としては何とか主導権を握りたかったはずであった.ところが林のカット・サーブの切れは相当なもので,主導権を簡単に渡すことはなかった.事実,第2ゲームだけスコアーを6-4と競ったが,第4,6ゲームは0,1と簡単に台湾ペアが取っていた.

李源學のカット。はじめてみるが付け焼き刃ではない本物の切れをみせた。
 ところが台湾勢はそれだけではなかったのだ.林は,柔らかな牙をむいたのだ.速いボールを打たなかったのだ.スローモーションのような打球なのだ.韓国勢にしてみれば,劉永東のネット・プレーでの破壊力に期待したいところだが,何故か思うように動けない劉永東がそこにいるのだ.特に逆クロス(アドバンテージ・サイド)でそれは顕著であった.劉永東に触られることのないようなコースに打球し,それが李源學にとっては実に打ちづらいコースになっていたのだ.打球が緩やかである分,李源學には相手ネット・プレーヤーである方の姿がよく見え過ぎるくらいに見えていたのではないだろうか,そしてその結果,李源學の最大の武器であったはずの打球力を失っていたようであった.

 そして林はこの対戦で,今大会におけるベスト・ショットとも呼ぶべきスーパー・ショットを放ったのだ.逆クロスでサイド・コート側に大きく出されてしまった林は,次のショットをフォアハンドでストレートへ放った.ボールは緩やかにネット・ポールの近くを通り,それを見て取った劉永東はアウトと判断しウォッチしたのだ.しかし,ボールはシュルシュルとあたかもスライスしたかのように,そのままサイド・ラインに乗ってしまったのだ.誰もが予想すらできなかった結果だった.そんなことのいくつもの積み重ねがあって,李源學は自らの打球力が通用しないと感じてしまったのだろうか,無意味とも思えるロブを上げるようになってしまっていた.

 こうして韓国重戦車軍団の一角が追い込まれていった.そして,第7ゲームの韓国ペアのサーブを破ると,第8ゲームは台湾勢のサーブとなった.必死な韓国ペアは,ゲーム・ポイントこそ取ったものの,結局台湾ペアのシステムを打ち崩すことはできなく,ゲーム・カウント5-3で台湾勢がまず一勝をあげた.(続く--->クリック!!