韓国テニスの研究 
バックハンド編 part1 [ Intro〜テイクバックキムボプヒョンの技法 ]
Intro.

「韓国バックの復建 part1キムボプヒョン登場」のつづき、つまり世界選手権の観戦記、として書きはじめたのだが、考えるところあって大幅に脱線してしまっている。しかも随分と時間をかけてしまった。どうか御容赦を....

 世界チャンピオンキムボプヒョンのバックハンド。いわゆる両手打ちではない。以前にも書いた通り、男子で両手打ちの選手は少ないのである。が、その打法には、日本での一般的なバックハンドの通念とはまるで違う思想がある。
 「韓国バックイコール両手打ち」という図式が日本においてできあがりつつあるが、そのわかりやすさは、甘い罠である。本質は、これもどこかで前にも書いたが、そこ(両手打ち)にはないからだ。 つまり、両手打ちをとったら日本のバックと変わらない、ではない。
 韓国バックへの関心が高まりつつあるように見えるのはいいことだが、このような誤解がうまれるのはどういうことなのだろう。
 なぜ韓国選手のバックハンドが脅威といわれるのか、両手で打つから、ではない。彼らの放つボールの質が高いからである。両手で打つ選手のものも、そうでない選手のものも。ただそれだけである(質が高いということは、すなわち技術レベルが高い、ということでもある。当たり前のことだが意外とこれがわかってない人がおおい)。ところがその質の高さを実感した人は僅かである。韓国バックの名のみが有名になっていく。両手打ちというわかりやすいキーワードを伴って....あきれたことに、実際にみたこともないもの(韓国選手)を語ってしまうひとまで現れる(見てればそんなこというわけない・・・はず)、これもソフトテニスの閉鎖性に起因することなのだろうか。どうすればいいのか。とにかく機会をとらえて韓国選手を実際(ビデオじゃなにもわからない)にみてくれ、と、僕はいうしかない。その機会はほんの僅かしかないが・・・

 以下に名手チョンヒョンキ(元韓国代表)、 そしてユウヨンドン、から取材した韓国バックの真髄を数回?にわけて。


 前回(1999)の世界選手権代表のチョンヒョンキ(CHON,Hyun-KI)にバックハンドについて教わったことがある。日本式バック(?)との対比をおりまぜて丁寧に説明してくれた。

 それを文章で伝えるのは非常に難しい。どういっても誤解招きそうなのだ。しかし、いつもように蛮勇を奮って.......

Basic
チョンヒョンキ。2002アジア五輪韓国予選より。チョンインスーチェジフンと並ぶ3大バックハンダーだ。 切れの良さはチョンインスーと並ぶ。1996アジア選手権国別対抗優勝、ダブルス準優勝。1999世界選手権国別対抗準優勝、ダブルス3位。2002年シーズンを最後に引退。

 韓国バックと定義する以上、それにたいする○×バックがなければいけない。つまり大前提として日本式バック(Japanese Style Back Hand)が定義されているはず、である。しかし、考えれば考える程そんなものあるのか、という疑問がでてくる。フォアハンドに関しては、ある。過剰なぐらいの理論武装がされている(いいか、悪いかは別問題)。同じバックでもボレーとなるとそう。日本式というものが、形のうえでも言葉のうえでも確立されている。だから韓国式バックボレーとの比較も容易である(やった人はいないが)。

しかし、グラウンドストロークのバックハンドに関しては、貧弱な理論しか出回っていない。とかく、ソフトテニスの技術指導は経験論に極端に傾きがちだが、バックハンドはそれがもっとも顕著かもしれない。未だ、対象化することができていないのが、残念ながら、現状なのではないか?

似たような例がサービス理論だ。過去にでた指導書をみてもサービスの項になると途端、記述に情熱が失われる。このへんバックとそっくりだ。まあ、どっちかといえばバックハンドのほうがひどいが・・・

ある指導書ではフォアの連続写真は数点あるのに、バックは一点もなし、というのがあった。なんと一点もなしである。

つまり、日本でサーブやバック が上達するか否かはまったく本人の資質と情熱にかかっているといえる。むろんなんでもそうなのだが、特に顕著なのだ。教えるべき言葉をソフトテニス界はもっていないからである。過剰なものは必要無いし、むしろ弊害があるだろうが、最低限必要なものもないのだからどうしようもない。最初についた指導者が悪ければはそれでお終いだ。

 カール・フレッシュという20世紀を代表するヴァイオリンマスターがいる。彼は教育者として偉大な功績を残した。そのもっとも大きな功績はヴァイオリン奏法の標準化である。彼の手によって標準化かされるまで、ヴァイオリンの奏法は天才たちのものだった。魔法のようなものだったのだ。日本ソフトテニスにおけるサービスとバックハンドはまるでカール・フレッシュ以前の音楽界の状態によく似ている気がする。いややっぱり違うか。ヴァイオリンはカール・フレッシュ以前にもマスターの手によって技術が継承されてきた。ソフトテニスは必ずしもそうではない。

「バックハンドはこうあるべき」韓国選手のテイクバック
 韓国と日本ではテイクバックそのものの方法が違う。韓国選手のテイクバックは正面からみてグリップエンドがみえるように引く選手が多い。これはテイクバックの段階ですでにインパクトの形をつくっているからだ。つまり極めてシンプルにラケットがひかれる。

日本選手の多くは全く逆で、手の甲が相手にみえるように引かれ、ラケットをたてたあと、フォワードスイングに移る直前に手首が返される。実際にそういう指導が具体的にされている。伝え聞くところによると、その理由は手首を返すそのリバウンドパワーを利用するということらしいのだが・・・手の甲を相手に見せるようにするには、かなり窮屈に、脇をしめねばならない。そのことで右肩がさがり、身体のバランスに妙な歪みが生じる。一番肝心な肩のターンも不十分になりがちだ。実は日本でもバックの名手といわれるひとはこのようにテイクバックはしないのだ。不思議である。

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上段がキムヨンス、下段がオソンユルのテイクバック。左手で先導するといても、当然、さまざまな形がある。
オソンユルはオーソドックスなかたち。キムヨンスはかなり個性的で、チョンインスーのテイクバックに近い。

 これ(シンプルなテイクバック)は韓国選手が左手でテイクバックを先導しているからでもある。ラケットを左手で引くのだ(右利きの場合)。このテイクバック法は非常に重要である。これを(韓国バックの)特徴というにはあまりにベーシックなのだが(だからチョンヒョンキもこのことには特に触れなかった)、どういうわけか日本で軽視されており、また実際日本でこれをやっている選手はほとんど皆無といっていい状態なので、特徴と見る人もいるだろう(日本選手でもいないことはない。例えば1980年代に活躍した武士選手--早稲田->朝日生命--がそうだったような・・・)。私としては(韓国と日本の)違いというより、はっきり韓国バックのすぐれている点と指摘したいし、日本のプレーヤーのほとんどが片手でテイクバックするのは、それが日本バックだ、日本式なのだ、というよりは、単にあまり深く考えたことがないだけのような気がする。韓国バックといえば両手打ち、と騒ぎ、そこだけマネするような手合いがおおいが、それこそ猿真似、まずこのテイクバックこそ見習うべきなのではないか。見習うとしたら、まずそこからスタートするべきではないか。
 異論、反論はあると思う。ただこれだけははっきりしておきたい。バックハンドにおいて韓国は日本を完全に凌駕しているのだ。それは国際大会をみてきた目には、疑いもなく、一点の疑いも無く、明らかなのである。強烈でしかも高度なテクニックをみせる韓国の選手を何度も目の当たりにしてきた。そんな私を納得させるのは難しいと思う。

右画像は、上の例とはまた違った、日本選手におおくみられるテイクバックのかたち。左手が大きくうしろにひかれているのが特徴。これが肩のターンを先導しているのだが、名人芸的というか感覚的である。右手の大きな動きもそう。この形で間合いをとり、力を溜め、いっきにラケットを引いて、面を返し、振り出す。

 一説によると、バックハンドに苦手意識をもつ人がおおいのは、その動作が日常生活ではほとんどありえない力の入りにくい不自然な形であるから、ということだそうだ(無用な力みを生みがち)が、左手でひく(右利きの場合)ということで、それをカヴァーしてあまりある。
 

右上画像はドミニカのDURAN。典型的硬式スタイルの選手。グリップは古典的に薄い。第1シードのデ・レオンを好試合の末やぶっており、実力は高い。
右下はブラジルのブルーノタナカ。グリップはかなり厚くて、バックハンドセミウエスタンといっていいいだろう。硬式テニスのシングルハンドバックでこのグリップを用いる選手も増えてきた。ソフトテニスでもこのグリップをバックハンドグリップに用いている選手は多い。
いうまでもないが、硬式テニスにおいて左手を添えないでバックハンドのテイクバックをすることは禁じ手なのではないか、と思えるほど、徹底的に普及、浸透している。ラケットもボールも重いのであたりまえだが。今後、世界にさらに普及すればこの左手をそえたバックハンドが当たり前になり、日本式は少数派になるのは間違いない。

 レディポジションからのバックハンド体勢に移るスピードもまず全然ちがう。(テイクバック)軌道はシンプルで全く無駄がないからだ。グリップチェンジも簡単。肩のターンも充分に、しかも歪まずに自然におこなえる。 いいことばかりでおよそマイナス要素が見当たらない。考えれば考えるほど、なぜ日本ではこれが一般的でないのか不思議なほどだ。ダブルスのみを重視し、バックハンドを軽視しつづけてきたツケだろうか(バックが上手いと天皇杯がとれない、なんて信じられない言葉さえ存在する。旧旧ルール時代の話しだが)。そのことで生じるウィークポイントを馴れ合い的に誤魔化してきた、というのもある

ドメステイックな環境がもたらしたものだ。ショートボールがフェアではないと不文律のようなものが以前あったが、それと同じである。競技レベルが低かった、というしかないのか

 極論すれば、このテイクバック法を韓国バックの特徴としては、正直、挙げたくない。バックハンドはこうあるべき、と考えるからで、「韓国はこのようにテイクバックする」ではなくて「バックはこのようにテイクバックする」となるべきなのだ。つまり日本が異端なのである。国際大会の場ではすでにマイノリティでもあるし。もちろんマイノリティであるからダメだというのではないが.......

 
The Art of KIM Beop-Hyeon.
 
 

 キムボプヒョンのバックハンド。これは練習でしかも緩いボールを打ったものだ。 それほどシリアスな練習ではなかったのだが、まず丁寧さに心を打たれる。これから(次回以降で)述べるような韓国バックのユニークさはあまり顕著ではないが、本質的な技術の高さが、かえって、浮き彫りになった。
 特に注目してほしいのは左膝の曲がりだ。あまりはずまないボールに対して、左膝を十分まげ、右肩と左肩を結ぶ線が最後まで地面と平行を保っている。これが重要だ。これがフラットスイングを生む。つまり、クオリティの高いボールを生むのだ。バックの指導でよく肩をいれろ、というのがある。これをどういうわけか右肩を下げる、と誤解している人がいる。どうかするとフォアでもそうおもっている人がいる。指導者でもそう言う人がいる。肩をいれる、とは肩をターンすることである。上体を捻ることなのである。

 
 

グリップはフルウエスタンバックハンド。フォアハンドグリップでいうと薄め(イースタン気味)で握っている。韓国選手がみなそのグリップというわけではない。キムボプヒョンのフォアハンドグリップはセミウエスタン、かなり薄いわけだが、それからすこしチェンジしているようだ。ちなみに田絃基のフォアはイースタン、バックはウエスタン

 
今回は基本的な話しに終始したが、次回はそれをふまえて本質、真髄に迫る予定。