2006年現在、国際大会にでてくるようなレベルのプレーヤーのなかで、最強のフォアハンドの持ち主はだれだろう。『チェ・ジフン!!(崔志勲)』といいたいところだが、まだ現役とはいえ、彼が最後に四大国際大会に出場したのは1998年。現在の選手とはちょっといいにくい。韓国だったら世界チャンピオンの金法顕。アジア五輪ダブルスチャンピオンの李源學あたりが最有力候補になるか。日本なら花田だろう。台湾にはたくさんいる。揚勝發、林朝章、林舜武、黄軍晟、葉佳霖。そしてこの王俊彦。
アヴェレージということになれば揚勝發となるが、ここ一発の物凄さはこの王俊彦かもしれない。もっとも過激なダブルフォワードスタイル選手(ハードコート上)なので、グラウンドストロークの印象が稀薄かもしれないが、彼が『本気』で打ったボールは正に「向かうところ敵無し」の物凄さなのである。
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2005東アジア五輪(マカオ)シングルス決勝での王俊彦 |
正直に告白するなら私はこの選手の実力を完全に見誤っていた。2003年の台湾全國運動会にて彼をはじめてみたわけだが、なにか得体がしれない、と不気味な印象はうけたものの、それほど惹かれたわけではなかった。あの歴史的ともいえる世界選手権國別対抗決勝の韓国戦NO.2ダブルスでのテニスをみせられたあとでも、そのシステムにこそ仰天したものの、王俊彦そのものの実力を認めたわけではなかった。そのへんの私の彼への冷たい仕打ち?はチェンマイアジア選手権のプレヴューやレヴューを読んでいただければよくおわかりになるとおもう。しかしそのころから彼のときおり放つ、ビッグフォアハンドが気にはなっていた。彼のフォームはなにか無造作であり、予感というか気配みたいのようなものを感じにくいのであるが、ひとたびラケットがふられると、なにものをもはねとばす勢いがある。いや実際に彼がはなったストレートへのパスでポイントにつながらなかった例が一例でもあるだろうか。たぶんあるに違いないが、そう思わされるほど、そのフォアハンドは決定的なものをもっているのである。
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王俊彦のフォアハンドグリップ。かなりイースタン寄りの、セミウエスタングリップ。手のひらがほぼ打球面のうしろ側にまわっている。もっともフラットに適したグリップである。バックハンドも基本的にはチェンジしない。 |
極シンプルなフォーム、なんの飾り気もない。テイクバックはサーキュラー。フォワードスイングはフラットであり、全体としてはセミサーキュラーモーションということになる。18コマめから振り出し(フォワードスイング)がはじまっているが、ラケット軌道は〜インパクトかけてほぼ一直線(地面と平行)、しかも、グリップはイースタン系(セミウエスタン)、もっともパワーロスのすくない、『フラット』なフォアハンドである。インパクト後、ラケット軌道はやや上昇し(23)、最小限のスピンをボールに与えてはいるが、基本は、『前に振る』、であり、それが徹底されている(24〜27)。つまり目立ってラケットが上をむいて振られることはない。さらに強打を意図すると、このインパクト後のわずかな上昇もほぼなくなり、フォワードスイング〜インパクト〜フォロースルーとまさに一直線の『どフラット』になる。
踏み込みは極小さいが、体重移動をきっちりおこない、しっかりした回転軸をつくり、鋭いボディーターンでボールをとばしている。22のインパクトの画像をみてほしい。全身のパワーがボールにむだなく伝えられている様子がよくわかるであろう。上体がすでに左側を向いているボディターンもすごい。セミウエスタンフォアハンドグリップはイースタンとウエスタンの中間でおたがいの利点だけをとった「いいとこどり」の握り方だが、この王のフォームはそのグリップを最大限に活かしているといっていいだろう。
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