1996全日本選手権観戦記

大会が終わった翌日から関東地方は2日間雨に見舞われた。過去2回の川口大会は雨にたたられたわけだが今回もまさに紙一重、いや三度めの正直というべきか。期間中は初日の午後40分位の通り雨にやられたぐらいで2日めからは風もなく絶好のテニス日和といえたのではないか。

序盤の波乱少なし。格差広がる?


さて男子、昨年は過去2度優勝の神崎、小野寺組が初戦(2回戦)で破れるという大波乱の幕開けだったわけだが今年はきわめて平穏、静かな出足(無論、試合は激しいが)だった。荒木、塩出組がパッキンの高校生にとばされたくらいか?10年程前までは序盤戦での波乱は天皇杯にはつきものだったがここ数年は少なくなった。出場枠の拡大で上位と下位選手の差がひろがったせいかもしれない。今年は男子226組がエントリー(若干の棄権あり)。ちょっと多すぎるような気がする。日本一を決める場なのだからもう少し絞って権威を高めたほうがよいように思う。128ドローぐらいがいいのではないか。

初日は2回戦まで、これで 64組まで絞られる。第2日は3回戦から8本取(5回戦)まで。全日本の一番おいしい部分はこの2日めかもしれない。とく太陽が傾きはじめた3時ごろからのゲームは眼がはなせなくなる。どのコートについたらいいか本当に迷う。ちょっともったいないくらいだ。

松崎凄まじい迫力!!

朝の試合から順番にみていこう。前日から注目していたのが神崎、小野寺と松崎、大吉の対戦。神崎組にとって最初の大きなヤマである。松崎選手は彼が筑波大のころから注目していた剛腕の後衛で、最近は少なくなった薄いグリップからの厚い当りは破壊力抜群である。

心配したとおり(?)松崎選手は出足から凄い当り、凄まじい迫力で打ちまくり(ネットインがみんなはいってしまうような)、私のメモによるとG2-1の3-1までリード、どうなることかとおもったが、ここは神崎選手いいサーブと絶妙のパッシングできりぬける。これ以降どういうわけか松崎選手、勢いがなくなりロビングを多用したりとさっぱり迫力が無くなった。神崎組はもうひとつ調子にのれずファイナルになるものの、9Gめはあっさりポイントを離し、最後は7-4だったと思う。

1番コートでは中堀、高川組がインハイチャンピオンを相手になが~いゲーム。遠目にちらちら見ていただけなのでよくわからないが追いつかれてのファイナルゲーム。最後は簡単だったが、強い高校生がいるものですな。この東組をはじめ今大会は高田商勢(OB)の元気のよさがめだった。

篠辺・稲垣 四回戦敗退!

注目の篠辺、稲垣組は渡辺・八田組に苦戦、スコアは5-2だが渡辺選手のおもいきったテニスにあわやというかんじ。篠辺選手はすばらしくうまく前衛の出鼻をスカしまくるが得意のクロスがひどく不安定。後半さすがに相手に勢いがなくなり逃げきったが渡辺選手の思いきりが深く印象に残った。素晴しい選手である。

さて篠辺・稲垣組はここを切り抜けてなんとかなるかな、と思ったが次は元チャンピオンの田中、(岡本)組、いやな予感がしたがそれがあたってしまった(岡本選手はインハイチャンプ)。篠辺選手は相変わらず抜群のうまさで岡本選手を子供あつかい。レシーブからのネットダッシュを、サーブからのネットダッシュを、右に左に前にとスカシまくる。ほれぼれするようなコントロールとタイミングでここは本当に見事。しかしながらポイント源がこれだけで3回戦同様にクロスがまるで入らずラリーにならない。若い選手ならごまかせたろうが、さすがにベテラン田中選手は元チャンプ、エンスト状態の大ベテランペアを鋭く攻めまくり、篠辺組も意外とあっさり土俵をわってしまった。稲垣選手はほとんどゲームの形をなさないなかで、為す術がなかったが渡辺戦の最後のゲームは3ポイントするなどさすがというところをみせた。上位にあげてみたかったが今回は意外と組み合わせ運がなかったかもしれない。渡辺組にせよ田中組にせよ試合巧者、早い(暖まっていない)ラウンドであたるのはいやな相手。昨年などは篠辺組、下位の対戦は篠辺選手のひとりテニスで勝ちあがったのだが・・・

この大ベテランペアがここ4年間にソフトテニス界にあたえた影響ははかりしれない。来年もでてほしいし、当然狙ってもらいたい。またこの冬のインドアの主催者は是非この世界ソフトテニス界の至宝であるペアを招待してほしい。

鮮烈!東チャンプ中村!

地元期待の隠岐・浜田組も伏兵といっていい東邦ガスの若いペアに討ちとられ三回戦で消えた。隠岐組は昨年の大会で優勝した中堀・高川組をもっとも苦しめたペアといってよく注目していたが隠岐選手はいつも通り気迫はかんじられるものの、なにか執念がうすいというか中途半端なテニス。浜田選手もやりたいことはよくわかるが気持ちだけが先行して身体がついていかない感じ、地元で気負ったか?まあ、向かっていくわけにいかない相手だしむずかしいとこではあるとおもうが。優勝も狙えるペアがこのあたりで負けてしまうのは見る側としては今後の展開への興味がそがれてしまう。もうひと踏ん張りしてほしかった。

石橋・池田組という好ペアも三回戦で姿を消す。ただここは東日本を斎藤選手とのペアでとった中村(森本)組で現在の勢いでいけばむしろ順当か。シードも上だし。この中村選手、初めてみたが東をとったのは伊達ではないな、という印象。ほれぼれするようなシュートボールの連打から突如、目くらましのようなロブが前衛の頭上を越えていく。それにサービスのセンスがいい。いくら打球力があっても、強くても、サービスの美しくない選手は僕は嫌いだ。石橋選手はもっともっと上位で活躍していい(ほしい)素晴しい選手(ワールドカップチャンピオンだ(ペア安村選手))だが、ここはしょうがないところ。

 

1番コートでは木之村・中村組と井上・川本組が熱戦。木之村選手は僕が大会を見にいったときは真っ先にドロー上で名前をさがす選手。昨年は社会人成年で準優勝しながらでておらずがっかりしたが(優勝の渡辺、伊藤組も不出場)今年は地元ということもあり、さっそうと登場、2年振りだ。2年前の雨中での金川・塩出組とのファイナルの熱戦が思い出される。今年は練習も充分だったのかキレもいいようだったがG2-2からすこし不運なミスがつづいてG2-4、そこからはいいあたりでアっという間にファイナルとなるがそのゲームはすこしバテたか意外に淡泊に終わってしまった。中堀・高川組との対戦をひそかに楽しみにしていたのだが。木之村選手(第2回世界大会個人チャンピオン、同第4回大会3位、昭和51年度天皇杯優勝、昭和52年度同準優勝<ペア大木幸一選手>)はただボールを打つのをみてるだけでその柔らかいタッチに陶然となるほどの天才中の天才だと思うが、今年は実業団選手権のレギュラーからもはずれたようだし残念なことだ。沖田、桜井組が去り、木之村選手までもがいなくなるとなるといくら強くなっても川口市役所も味のないチームになってしまった。

強さとその持続

さて四回戦。神崎・小野寺組はインカレチャンピオンの浜口・松井組と対戦。神崎選手は教え子との対戦となる。浜口組は少し臆したか神崎組序盤戦をリードするがリードされてからの浜口選手は突如、振れだし手のつけられない当たり。浜口選手の打球のキレはまさに天才的で今後に期待大である。神崎組もゲームを離されずについていくのがやっとだったがファイナルゲームはさすがに少し余裕があった。浜口組も恩師大先輩を相手にまさか勝てるとまでは考えていなかったのかもしれない。最後は執念の差か。
ここまでの神崎組はもうひとつサエない感じでいささか先行きに不安を感じたが、実績からみると上位進出の最大のヤマと思われた8本取(五回戦)の川崎、橋本戦は打ちまくって圧倒。堂々たるゲーム振りで強い神崎・小野寺を今大会初めてみせた。川崎組も鹿島・井口組をとばした地元小山、秦組に貫祿勝ちするなど決して悪くはなかったと思うがここは格の違いをみせつけられた。相性の問題もあるのかもしれない。神崎組は負けるわけがない、というような自信がみなぎってみえたし、逆に川崎組には自信なげなコンプレックスのようなものがかんじられるのだ。クレバーなテニスをする川崎組だから先がみえすぎてしまうのかもしれない。そのへんがこの組のタイトル奪取への鍵か。川崎選手も神崎選手がまいった、といったようなボールもみせたが(中盤でみせた右ストレートはすごかった)単発でどうにもならなかった。そういえば福知山の天皇杯も同じ様な状況であたり結果もおなじだったことを思い出した。神崎、小野寺組はペアで11回目の出場で8回目のベスト8、そのうちベスト4まですすんだのは6回、決勝進出が4回、うち優勝2回という驚嘆するしかない強さとその持続である。

野武士のようなド迫力!!大橋

中堀組は四回戦井上・川本組にファイナルと苦戦したあと、北京アジア大会の個人優勝ペア、上松・大橋組と対戦。上松選手はともかく大橋選手は前日の試合をみていると随分ひどいできで、もう狙ってないのかなと思ったが、ナイターになりライトが灯された一番コートのコート決勝にあらわれた大橋選手はまるで別人のような素晴しい前衛ぶり、上松選手の堅実な配球(ロブが深い!!)にのって大胆不敵な勝負師ぶり。髪をふりみだして相手を注視するその姿はまるで野武士のようなド迫力!!こうした気迫を感じさせる選手は少なくなりましたな。

さてゲームのほうはお伝えしたような迫力でG2-0と上松組がリード、さすがにここでチャンピオンペアはふみとどまり、ここからG2-2になるまでのあいだ長いお互いの前衛が乱れ飛ぶ素晴しい攻防。土俵中央までおしもどした中堀組はあとは一気に寄り切った。後半はチャンピオンペアがまさに隙のない完璧なゲームぶりでベテランペアもどうしようもなかった。

驚嘆の声とため息の連続 北本・齋藤 壮烈に散る!!(四回戦)

さて1番コート試合がおわって4番コートをみると大変なことになっていた。現世界チャンピオンで過去今大会3回優勝(現役最高)の北本・斎藤組が天理大の渡海、合田組にG0-4とまさにガケッぷち!1渡海組は朝の試合から凄い迫力で学生テニスの真骨頂をみせており、気にはなっていたのだが。ここは北本組ふんばってなんとか盛り返しかけるが相手のマッチポイント、たしか3本までは耐えるがついに土俵を割る。しかしながらこの数本のマッチポイントでみせた北本選手の鬼神のような迫力は特筆もので今大会最大の見せ場といえた。とにかく逃げない。打ち切ってピンチに立ち向かっていき、2本、3本と豪球がベースラインをかすめていくのにはふるえがきた。会場も驚嘆の声とため息の連続である。なんとか乗り切ってほしかったがいかんせん斎藤選手が悪すぎた、こちらもため息。さてこのペア現在実力NO.1は誰もが認めるところだが今大会に限っていえば昨年は大ベテランの篠辺、稲垣組に、今年は学生に上位進出を阻まれている。随分長いペアなので倦怠期なのかな?北本選手は八年連続のベスト8入りを逃した(斎藤選手は六年連続)。

さて最終日、準々決勝から始まる。コートは男女2面づつを使いゆったりとおこなわれた。中堀、高川組は地元の澤田、仙福組と対戦。正直この澤田組のベスト8進出はおどろいた。たしか東日本で上位にでたはずで開眼したか?決してブロックが軽いわけでもなく、堀越、米沢組、佐藤、日置組など上位の常連ペアを連破しての堂々の進軍である。このゲームも序盤リードを奪い、いいテニス、いい闘志である。リードしてからおとなしくなってしまい、迫力がうせてしまったが、終盤再び気力を燃え上がらせて向かっていったのには感心した。埼玉は名選手のまさに宝庫、もまれていくうちになにかをつかんだのか。日本リーグなどでみる澤田選手とは別人のようだった。今後が楽しみ。

石岡選手は久々の上位、新ペアで気分一新か?しかしこの花井選手随分荒っぽく、逆に合田選手は学生選手のなかでは抜群のうまさでスコアほどには競ってない試合。余談だがこの合田選手以外の学生前衛は随分見劣りした。特に新ルールに変わって数年になるのにサーブも満足に打てない学生前衛がいるのにはあきれてしまった。

森田、安村組はここまで圧倒的な勝ち上がり。特に森田選手の厚いあたりの豪打は驚異的な破壊力で、『凄いボールだな』と感嘆の声がするほうをみると必ず森田選手の姿があった。しかし神崎組の前にはまるで効果がなかったようだ。神崎選手は昨日の川崎戦とはうって変わったロブを多用したうまいテニス。森田選手もいいボールが3本あるものの4本続かないかんじで、そのへんを見透かされた風。森田選手の若さがモロに出た試合といえる。それにしても最終日にみせた神崎選手のテニスは他の後衛達とは比較を絶する抜群のうまさ、全体に若返って妙に力まかせになり悪い意味でスポーツ的になった現在のソフトテニス界にテニスの奥の深さを昨年の篠辺、稲垣組とともにみせてくれたといえる。

もうひとつの準々決勝、すみません全然みてませんでした。

準決勝からは男女一試合づつ、線審もはいりムードが全然変わる。初めての選手だとたいてい浮き足だってしまう。東西日本選手権や社会人選手権、インカレも観戦したことがあるが天皇杯とはまるで雰囲気が違う。特に準決からの試合は品格があり儀式めいている。今年の組み合わせはふたつとも賜杯の保持者と初めてベスト4にでた若手の手合わせ、やってみなくても結果はみえているな、と予想したが本当にそうなってしまった。ほとんど書くこくとがない。だって印象にのこるところが全然ないんだもの。まあ今年は決勝のビデオ撮影があったので準決勝からカメラが数台はいりテストしていたし、余計ものものしさが増大してしまった。そんななかで社会人2組は平常心、神崎組は相変わらずうまいし、中堀組も圧倒的、軽く飛ばしてしまった。

さて決勝、進行表によると女子をさきに行いそのあとで同じコートで男子を行うことになっていた。そうアナウンス放送もされていたと思う。しかし例によって女子のゲームは長い。男子の準決勝がかなりはやく終了してしまった。そこでまた例によって進行変更である。12時40分頃だったと思うが12時50分より男子決勝をおこなう、ときた。さすがに女子準決勝が終了次第と変わったが、ちょっとまってよ、といいたくなる。女子の試合が男子より長引くのは関係者なら誰でも予測がつくはずでとても不測の事態とはいえまい。なのになぜかくも簡単に変更してしまうのか。日没がせまっているわけでもない。天候が不安定なわけでもない。ただスムーズに進行させたいだけではないのか。出場している選手はそのつもりで準備しているわけで、せっかく3日間になり日程に余裕ができ、しかも好天に恵まれたのだから選手本位な進行をしてほしかった(連盟のきわめて日本人的な官僚的な対応が時々気になることがある)。とはいえ全体としてはさすが埼玉県連、スマートな進行は素晴しかったと思う。
さて男子決勝は4人とも天皇杯保持者。実は4人ともそろうのはきわめてめずらしいことで1979年の山形でおこなわれた木口、横江組対若梅、藪崎組の死闘(らしい、僕はまだ中学生当然みてません。当時の月刊「軟式テニス」の特集を読んで胸おどらせていました。たしか山形ローカルでTV中継されたはずでもしビデオ収録された方がいたら是非メールください))以来のことになる。16年ぶりということか。3人だとすると1987年の名古屋での山本、沼田組の若梅、田中組の対戦(こっちは見ました)以来である。
決勝に名勝負なし、とはどのスポーツでもいえることらしいがソフトテニスも例外ではない。さて今年はどうだったか?







こちらの記事もどうぞ(関連記事)

コメントをどうぞ

comments

Powered by Facebook Comments